ひと口飲んだ時、
「なんだ、このお酒は…」
と思わず声が出てしまった静岡の日本酒「喜久酔」。
まるで澄んだ空気をそのまま味わっているような「透明感」…
すっとしみ渡っていく美しい味わいに衝撃を受けました。

現天皇、皇后がまだ皇太子、皇太子妃だったころ、静岡に来静された際、その味わいに感銘を受け、愛飲されていたお酒でもある「喜久酔」。
そんな「喜久酔」を造るのは、静岡県藤枝市の青島酒造さん。
「この土地の良さを最大限引き出す」
そんな想いのもと、 1868年からこだわりの酒造りを続けてきている蔵元です。

普段は、秋から春にかけて昼夜を問わず仕込みに向き合うため、なかなか訪問が叶わない青島酒造さん。
実はヴィノスやまざきは、2代目・山崎巽の時代に、「静岡酵母」を開発した技術者・河村傳兵衛さんとともに「静岡の良い酒を世に広めたい」という想いで、蔵元を支えながら地酒の魅力を全国へ発信してきています。
その深いつながりの中で、今回特別に訪問を受けていただきました。
「喜久酔」の透明感と美しさの秘訣をレポートします!

迎えてくださったのは、「喜久醉(きくよい)」を醸す杜氏・青島傳三郎さん。
かつてはニューヨークで活躍する金融マンという経歴を持ちながら、家業である酒造りに向き合う中で、その本質に惹かれ、この道へ進まれました。
単なる「商い」ではなく、 「静岡・藤枝の、この土地の文化を残すこと」。
水、米、そして四季のうつろい…
それらを酒として表現する営みに魅せられたといいます。
また青島さんは、静岡吟醸酒の礎を築いた 河村傳兵衛さんから直接酒造りを学び、傳兵衛流吟醸醸造法を実践する、数少ない継承者の一人。
傳兵衛さんから授かった「傳三郎」という名には、その技術だけでなく、酒造りに向き合う姿勢や哲学を受け継ぐという意味も込められているそうです。
すべてにおいて丁寧で、そして「この土地の良さを表現する」ことを徹底している青島酒造の酒造り。
今回お話を伺いながら感じた細部への徹底したこだわりは、まさに傳兵衛さんの教えの延長線上にあるように思えました。
■驚くほどやわらかく、なめらかな水

蔵に入ってまず案内いただいたのは、「水」。
蛇口をひねると、勢いよく流れ出る仕込み水。
富士山の雪解け水が長い年月をかけて辿り着いたその水は、驚くほどやわらかく、なめらかなのが特徴です。

実際に口に含むと、すっと体に馴染むような感覚。
この水が、そのまま酒の骨格になる。 青島酒造の酒の透明感は、ここからすでに始まっていると感じました。
■水に合わせて米を選ぶ

使用する酒米にも、明確なこだわりがあります。
兵庫や滋賀の契約農家で、畑まで指定した山田錦、そして地元静岡の米。 いずれも、「顔の見える関係」の中で育てられた山田錦を使っています。
興味深いのは、「一般的に評価の高い米=自分たちに合う米ではない」という考え方。
酒造りの世界では“特A地区”と呼ばれる評価の高い山田錦が知られていますが、
青島酒造にとっては、それが必ずしも最適ではないといいます。
特A地区の米は水分が多く、柔らかいため、旨味が出やすい。
一方で、仕込み水がやわらかい青島酒造では、その特徴が「味が出すぎる」方向に働いてしまうことがあるのです。
そこで選ばれているのが、滋賀・加古川流域の砂利地で育つ山田錦。
この土地で育つ米は、丸々と大きくなりすぎず、身の締まった米ができるそう。
その締まった米が、やわらかな仕込み水と合わさることで、
味わいが過剰に出ることなく、繊細で透明感のある酒質につながるそうです!
さらに、青島さん自身が田んぼに立ち、米の状態を肌で感じながら、その年の酒造りへと反映させていきます。
水に合わせて米を選ぶ。その結果として生まれるのが、
あの繊細で透明感のある「喜久醉」の味わいであることを、実感しました。
■ 洗いに始まり、洗いに終わる…洗米
「酒造りは、洗いに始まり、洗いに終わる」
その言葉の通り、お酒の味を左右する重要な工程です。
米は5kgずつ手洗いで、かけ流しの水を使用。
また、洗い始めた瞬間から吸水が始まるため、秒単位で吸水を管理するという徹底ぶり。
米の表面に残るぬかや雑味の元を徹底的に取り除き、 洗い上がりの水がほぼ透明になるまで磨き上げる…
この工程が、あの澄んだ味わいの土台をつくっているんですね。
さらに驚いたのは、搾りの工程で使う布袋へのこだわりです。
袋の網目に残る微細なぬかや雑味が酒に影響しないよう、 2〜3週間かけて、水だけで何度も何度も洗い続ける…
完全に無臭の状態にして、ようやく使用するとのこと。
これも、傳兵衛さんの教えを忠実に守っている取組、目に見えない部分にまで手をかける姿勢が、酒の完成度に直結しているのだと感じました。
■人の五感で進める仕込み

仕込みはさらに繊細な工程へと続きます。
洗われた米は水に浸され、「赤ちゃんをお風呂に入れるように」丁寧に扱われます。
その後、蒸しの工程へ進み、香りの変化を人の五感で見極めていきます。
気温や湿度によっても変わるため、最後に頼るのは経験と感覚。数字だけではなく、人の感覚で仕上げていくそうです。

その象徴が、麹室での作業。
温度約35度、湿度約50%という過酷な環境の中で、3日間、麹の成長にひたすら寄り添い続けるそう。
モノをつくっているというよりかは、「生き物を育てる感覚」で寄り添うとおっしゃっていました。
働き方改革が叫ばれる現代では、雇いの杜氏さんが交代制で入る蔵も多い中、社長であり杜氏であるからこそ、自らこの現場に立ち続ける。
その覚悟が、酒の質を支えているのだと感じました。
■クリーンな環境で、寄り添いながら進む発酵工程

発酵もまた、その哲学が表れます。
大吟醸は小さなタンクで約35日、特別本醸造でも21日〜25日ほどかけて、ゆっくりと進められる発酵。
軟水による緩やかな発酵だからこそ、 ごまかしの効かない、米の旨味がそのまま表れる酒になります。
そして仕上げの「搾り」。
最初に出る「あらばしり」、 バランスの良い「中取り」、 力強い「攻め」。
それぞれに個性がありますが、青島酒造ではそれを分けて価値を付けるのではなく、すべてをひとつの酒としてまとめます。
「全部そろって、その酒になる」
その考え方が、とても印象的でした。

青島酒造が造るお酒は750石。
種類も 決して多くはありませんが、それは意図的な選択です。
「自分たちの目の届く範囲で、確かな酒を造る」
量ではなく、質。
広げるのではなく、深める。
すべての工程で徹底されてきたその考え方が、最後にここへと集約されているんですね。
水、米、酵母、そして人。
そのすべてが重なって生まれる、静岡ならではの繊細で美しい味わい。
その一杯の背景には、想像以上の時間と手間、そして覚悟を感じました。
澄み渡る味わいの青島酒造「喜久酔」、ぜひお楽しみください!


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