ワインのプロが反省した極上の白ワイン

ボルドーのシャトー・ムーラン・オーラロックは、ボルドー右岸のメルローを主体とする赤の銘醸ワイン。
有名なワイン雑誌で、50万円もするシャトー ペトリウスと同点という高評価を獲得を取ったこともあれば、ワインの漫画「神の雫」にも掲載されたこともあります。
シャトー・ムーラン・オーラロック

前当主、ジャン・ノエル・エルヴェさんのワインの対するこだわりは半端なものではありませんでした。
フロンサックという小さな村で、収穫量を落とし、自分達の手作業の葡萄の選別まで何度も行います。
そして、最近のワイン発酵はコンピューターで温度管理されていることが多いですが、エルベさんは寝袋を醸造所に持ち込み、発酵の音を聞きながら、醸造を行うというワインクレージー。
シャトー・ムーラン・オーラロックの前当主エルヴェ氏
さらに、プリムール(新酒)でネゴシアン(ワイン商)に売るわけではなく、自分達のカーヴで飲み頃になるまで熟成。
10年前後熟成させて、本当に美味しくいただけるタイミングで、顔が見えるお得意先様だけに、手頃な価格で提供してくれるのです。
そんなエルヴェさんと、ヴィノスやまざきとは親戚のような蔵元。
先代の山崎巽の頃から、言葉は通じなくても分かりあい、信頼しあってきました。
     
エルヴェ氏の後を継いだ現当主トーマ氏も、お父さんに負けない職人気質。
お父さんの手法を引き継ぎ、葡萄の畑の手入れ、葡萄の選別、醸造、全て自分の手で手掛け、ジャンノエルに負けない、素晴らしいワインを造ってくれるようになりました。
シャトー・ムーラン・オーラロックの前当主エルヴェ氏と現当主トーマ氏
ある時、そんなトーマに、日本の母のような関係の種本祐子が、宿題を出したのです。

「お父さんは造らなかった白ワインを造ってほしい。」


種本によると、
「あの土壌は、サンテミリオンとも似ている土壌。
 シュヴァル・ブラン(ボルドー右岸、サン・テミリオンのトップシャトー)のような素晴らしい白ワインができるポテンシャルがあるのでは、と。
 それに加えて、トーマの情熱にかけてみた。」
とのことでした。

それから、トーマは葡萄の樹を植えるところから手掛け、2019年、初の白ワインが出来上がりました。
シャトー・ムーラン・オーラロックの白

数量は本当に少しでしたが、2019年、2020年と宿題の白ワインは届き、種本他、専門家委員会も試飲して輸入をすることになりました。

その時の、専門家委員会の鑑定は、
「よく出来ていて綺麗。すっきりとしてドライ。よく出来た白ワイン」
でした。
しかし、ティスティング歴30年のH氏がこう言いました。
ムーランは白はまだまだだね。
 レイニャックの白のような濃くて官能的な白にはかなわないな。

それでも2019,2020のヴィンテージは、あっという間に売れてしまい、2021と2022は地元で人気で売り切れ、日本に売る分は無いと言われたのです。

でも、量もわずかだし、
まだこれからのワインだから…
そう思っていたのですが、昨年の夏、シャトー・ムーラン・オーラロックを訪問したときのこと。
シャトー・ムーラン・オーラロック
シャトー・ムーラン・オーラロック2023を樽から試飲させてもらいました。
 
「こ、これは….」

どうしても輸入したい、サンプルを日本に送る時間的余裕もない。
今、決めなくては。

私は独断でシャトームーランオーラロック白2023を予約したのです。
そして2025年夏、ついに瓶詰された2023年白が入荷しました。
是非、試飲をお願いします・・・と、このワインの産みの親・種本祐子と、厳しい評価をするH氏に試飲をお願いしたころ…
    
「これは、凄い。
 まだ若々しい緑がかった色調だけれど、先程新大陸の白ワイン試飲したばかりなのに、負けてない位、濃い!!
 樽が綺麗にかかっていて、しっかりとした酸と果実味が、柔らかく溶け込んでいて、あとからぐんぐんと旨みがくる。」

ああ。本当に美味しい。
 トーマに合格点を出したい。
 というより、期待をはるかに上回る、素晴らしい白ワインが出来たね。トーマ、凄いよ。」
  
と、種本は涙ぐんでさえいました。
   
ムーランオーラロック白2023は、ソーヴィニヨンブラン100%、フレンチオークの樽で12カ月熟成、それも、特注の樽で熟成しています。
そして、2019に厳しい評価をしたH氏は、
   
私は反省しているんだよ。
 実は先日、一本だけ残っていた2019を飲んだのだけど、熟成したムーラン・オーラロックの白は、まったりとして複雑で、まるで、グランヴァンの白、いや、それを超えているかもしれないと感じた。
   
 ムーランは、すぐに飲むより、何年か熟成して飲むワインなのだとわかった。 
そのポテンシャルを見抜くことが出来ず、2021と2022は入手することすらできなかった。
 本物のワインは、時間がたってからこそ実力がわかる。本当に反省だ。
  
とも。

「2023は、もうすでに今飲んでも濃くて複雑で、でもきりっとした酸味とたっぷりの果実味で美味しいけれど、できれば3年くらいして飲むと、さらに旨味が増すだろう。よく、2023年を手に入れてくれたね。ありがとう。」
  
数樽だけしか造らない、このワインは、すでにこの数年間目にする機会もなく、もはや「幻の白ワイン」になっていました。
2023こそケースで購入して、熟成してゆっくりと5年くらいかけて飲んでいきたい。
きっといつか、いや、近い将来、お父さんのエルヴェさんの造った赤ワインと同じように、トーマの造った白ワインもワインの歴史に残る銘醸ワインになるだろうと確信したのでした。

フランスワイン買い付け隊
鶴見明
現当主トーマ氏

 

この記事を書いた人

買付隊 鶴見 明

買付隊 鶴見 明

フランスワインが好きすぎて、某地方銀行を退職。ヴィノスやまざきの存在に触発され、その数年後の1999年の夏に単身語学留学。場所は当店フランスワイン直輸入発祥の地、スペインとの国境沿いのワイン産地「ラングドック・ルーション地方」。片道30㎞以内は自転車で蔵元を巡り、すっかり南フランスのワインの虜に。2001年9月末に帰国後、早速ヴィノスやまざきに履歴書と入社への熱いメッセージを送り、同年12月25日からアルバイトとして渋谷店にて勤務を開始し、現在に至る。J.S.A.日本ソムリエ協会認定 ソムリエ、SSI認定資格 唎酒師の資格を保有。

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