洗練された上質な酸味、複雑で奥行きのある果実味、そして揺るぎないストラクチャー。
グラスを口に運んだ瞬間、私は驚きました。
「本当にこれがナパ・ヴァレーのワインなのだろうか・・・」

ナパ特有の豊かな果実味がありながら、まるでボルドーの格付けシャトーワインを思わせるような気品と風格…
今まで味わったことがないナパ・ヴァレーでした。
このワインとの出会いは、ヴィノスやまざきと長年のパートナーであるウォーターストーン・ワイナリーのブレントさんの一言から始まりました。

「ナパ・ヴァレーで知る人ぞ知る、話題のワインがあるから一度訪問してほしい」
そうして訪れたのが、ヘスペリアンでした。
現地でオーナー兼ワインメーカーのである、フィリップ・ラングナー氏とお話した際、このワインの背景にある驚くべきストーリーを知りました。

実は、フィリップ氏のお姉さまはフランス・ボルドーの名門ロスチャイルド家へ嫁いでおり、その縁によって彼は若くしてボルドーの名門シャトーの世界へ足を踏み入れる機会を得ることができました。
そこで彼は、世界最高峰のワイン造りに触れ、卓越した品質への基準を学び、世界的醸造コンサルタントとして知られるミシェル・ロラン氏をはじめとする著名な醸造家たちと共に仕事を経験。
その環境の中で、ワイン造りの本質とも言える哲学を身につけていったそうです。
ヘスペリアンのワインから感じる「ボルドー的な品格」の理由が、そこにあったのだとわかり始めてテイスティングしたときの謎が解けました。
さらにフィリップ氏は、実にユニークで、グローバルな経歴でした。
幼少期から青年期にかけて、家族が経営するコロンビアやザイール(現コンゴ民主共和国)の農園で育ちました。
彼は幼い頃から植物の成長に魅了され、「農業こそ自分の人生そのものだ」と語ります。

その情熱はやがてカリフォルニア大学UCデイビス校へと繋がり、農学と農業経済学の修士号を取得。
科学的な知識と実践的な経験を兼ね備えたブドウ栽培家としての基礎を築き、8年間ナパ・ヴァレーのラザフォード地区にあるサリヴァン・ヴィンヤーズで栽培責任者兼ワインメーカーとして活躍しました。
2010年にフィリップ氏は、自らの夢と理想を追求し、急峻で岩だらけのアトラス・ピークの土地を手に入れると、自らダイナマイトで岩を砕きながら畑を開墾。
そしてその畑を、コンゴのリンガラ語で「美しい」を意味する
「KITOKO(キトコ)」
と名付けました。

「ヘスペリアン」とは「西の者」という意味を持つ言葉で、古代ギリシャ神話に登場する、西方の楽園「ヘスペリデスの園」に由来しています。
そのロマンあふれる名前には、理想のワイン造りへの憧れが込められていると感じました。
フィリップ氏は
「より良いぶどうを収穫するために畑で努力を重ねる。
そしてワイン造りはできる限りシンプルにする。
そうすることで、その土地とぶどう本来の個性を最大限に表現できる。」
非常にシンプルですが、その言葉には長年培った哲学が凝縮されていると感じました。
さらに、ヘスペリアンのもう一つに魅力、それは熟成です。
今回の訪問で最も感動したのが、熟成ワインの数々でした。

フィリップ氏が大切に保管してきた20年以上のバックヴィンテージや、自社畑KITOKOヴィンヤードの垂直テイスティングを体験させていただき、改めてヘスペリアンの真価を実感しました。

その中でも特別に分けていただいた希少なワインがあります。
ヘスペリアン カベルネ・ソーヴィニヨン ラザフォード ナパ・ヴァレー 2008

自社畑を所有する以前、フィリップ氏が築き上げたネットワークを通じて、銘醸地ラザフォードのぶどうで造られた一本です。
18年以上の歳月を経たこのワインは、現在のナパでもなかなか出会うことのできない貴重な熟成ワイン。
グラスからは熟した果実の香りだけでなく、熟成によって生み出された複雑なニュアンスが幾重にも広がります。
品のある酸味。
バランスの取れた果実味。
きめ細かく溶け込んだタンニン。
そして長く続く余韻。
その味わいには、時間だけが生み出せる深みがありました。
ワインは熟成することで、時の流れとともにゆっくりと成長し、その個性をより深く、美しく表現していきます。
若い頃の力強い果実味は、やがて複雑で繊細な香りへと変化し、酸味とタンニン、果実味が見事な調和を奏でます。
一口飲むたびに新たな表情を見せてくれる。
それこそが熟成ワインの魅力だと私は思いました。
そのワインが歩んできた歳月そのものを感じられることも大きな感動でもあります。
今回ご紹介するヘスペリアンは、ぜひご自身の五感で味わっていただきたい一本です。
ナパ・ヴァレーの大地が生み出した果実と、ボルドーの哲学、そして長い年月が織りなす美しいハーモニー。
ぜひ、その感動をお楽しみください。
買付隊 福井

