ヴィノスに入社したのはもう十数年前のこと。
ワインの魅力に憑りつかれ、単独で南フランスへワイン留学を敢行。
以降、南フランスワインを啓蒙すべくヴィノスやまざきに入社しました。
入社してからは様々なワインを飲んでいますが、やっぱり今でもよく飲むのはラングドッグ地方のワインが多く、中でもこの時期に欠かせないのが「ラ・グラーヴ・メルロ」です。
食欲をそそる赤い果実の香りが立ち上がり、口に運ぶと柔らかくスムースに流れ込んでいます。そこからは香りよりももっと凝縮された果実感が広がり、飲みごたえと酸のバランスが抜群です。
この時期には少し冷やして飲むのが、温度によっての味わいの違いが楽しめるため、このワインの魅力を一層感じることができます。
今ではヴィノスを代表する南フランスワインとしてお客様に愛されていますが、実は、このワインを手掛けるオロスケットさんとの出会いの裏にはヴィノスやまざきの壮絶な苦労話があったのです…。
ヴィノスやまざきが、お客様の声で“安くて旨いワイン”を探し、南フランス・ラングドック地方から「シャトー・レゾリュー」のワインを借金してコンテナ輸入した話は、社内やお客様、また多くの雑誌で紹介されたこともあり、よく知られた話となりました。
「シャトー・レゾリュー」は大ヒットとなり、6ヶ月で売る目標だった1コンテナ分が1ヶ月で売り切れました。
しかし、そこは小さな蔵元だったため、その後しばらく在庫が足りず欠品してしまうことになります。
多くのお客様やレストランからもレゾリューを購入したいと、ありがたいお話をいただいても商品がない…。
そんな状態が続くのを避けるためにも、レゾリューの代替えワインを探すことになりました。
その際いくつかの蔵元のワインを輸入いたしましたが、多くの蔵元は有名になったら、生産量が増え「質が変わってしまった」とお客様から声があったり、価格をあげたり、挙句の果てには他のインポーターに移ってしまったり…。
なかなかヴィノスの考えに賛同して、日本のお客様のためにいいワインを提供し続けてくれる蔵元はいませんでした。
そして、苦難の後に出会ったのが、ワイン造りを始めたばかりのオロスケットさんです。
我々がオロスケットさんの叔父にあたる方の蔵元を訪ねたことがきっかけで、甥であるオロスケットさんから「是非、自分のワインの味も見てくれないか?」と連絡が入りました。
早速現地で味をみると、とても素直できれいなワイン。
レゾリューとはスタイルが違い、「まあ美味しいけど・・」というのがその時の素直な感想でした。
しかし、オロスケットさんは大変謙虚で向上心が高く「日本のお客様のためにはどんなワインを造ったら良いのか、是非アドバイスしてほしい!」と、頼んできました。
以降、毎年のようにオロスケットさんの元を訪ねては様々なディスカッションを重ねて、日本のお客様の好みや要望を伝えました。
「もっと凝縮感のあるぶどうを造ってほしい」と言えば、1本当たりの収穫量を減らすことで、ぶどう1粒の果実感を高めてくれたり…
「白ワインは、濃くても酸を大切にしてほしい」と伝えると、彼自身が真夜中にヘッドライトを付けて夜間収穫(ナイトハーヴェスト)をして酸の残るぶどうを収穫してくれたり…
こちらが伝える要求を、次から次へと実現していってくれたオロスケットさん。
ついに、現地のコンクールでも、最高金賞を獲得し「南フランスの英雄」として紹介されるなど、地元でも第一人者と言われるまでになったのでした。
さらにその向上心は留まることなく、ヴィノスやまざきが2年に一度開催している、ワインと日本酒のフェスティバル『蔵の祭典』にオロスケットさんを招待した際は、世界各国のワインをテイスティングし、「自分ももっと良いワインを造らないと・・・」と刺激を受けたそうで、今でもその品質は向上し続けています。
それでも価格は上げず、ずっと同じ価格で素晴らしいワインを提供してくれるオロスケットさんの心意気や謙虚さ。味わいはもちろん、その実直で真面目な人柄だからこそ、長年お客様に愛されるロングセラーワインになったのだと思います。
ウルグアイやポルトガルなど、新進気鋭の蔵元のワインももちろんオススメですが、ぜひこの夏に当店の原点とも言える“南フランスワイン”を改めてお楽しみ下さい。
南フランス 買付隊員代表 鶴見