夏ヌーヴォー、誕生の裏側

毎日、うだるような暑い日が続いていますね。
この時期人気のワインは、やはりフレッシュ&フルーティなオーストラリアの新酒「夏ヌーヴォー」。
本日は、改めてこの「夏ヌーヴォー」誕生の裏側を、私からお話させていただきます。

私がヴィノスやまざきに入社したのは、今から10年前。
当初からワイン業界に絞って就職活動をしていた私は、大手インポーターに受かるも、当時はまだ今より規模の小さかったヴィノスやまざきに入社することを選びました。

なぜなら・・・

すでにあるワインをただ輸入してお客様におすすめするだけではなく、畑のぶどうを選ぶところから自分たちで行い「マーケットイン」でワインを造り上げていきたい・・・という社長(当時は専務)の夢を聞いてワクワクし、私もそんな仕事をやってみたい!いや、絶対やってみせる!そう思ったのです。

ヴィノスやまざきでは、この「マーケットイン」の考え方のもと、ソレイユメリタージュトゥルー・ヴァインなど・・・様々なオリジナルワインを開発し、大ヒットに繋げてきました。
そして、レゾリュープティ・プロなど・・・もともと生産者が造っていたワインであっても、お客様はこんな味わいを求めている、もっとこんな味わいにできないか?という生産者とのディスカッションを重ねることで、質の向上を続けてきたワインは、長年愛され続けるロングセラーになっています。
これらのワインは全て、お客様の声に耳を傾け、お客様の求めるワインはこれだ!という情熱から生まれたものです。

いつかはそんな仕事をやりたい・・・そう思って入社した私ですが、これは簡単に出来ることではありませんでした。
大ヒットするワインを造りたい・・・そのためには、どうしたら・・・?
そんな思いを常に抱きつつ、今自分がやっている仕事が必ず実を結ぶ日が来るはず・・・そう自分に言い聞かせ、営業部、武蔵小杉店、仙台店など、場所は変わってもひたすらお客様と向き合い、経験を重ねる日々が過ぎました。

2017年5月。
そんな私に、ついに巡ってきたチャンス・・・!
それが「夏ヌーヴォー」プロジェクトだったのです。

きっかけは、「ヌーヴォーってフレッシュな味わいなのに、ボジョレー・ヌーヴォー解禁は11月。暑い夏にこそ、フレッシュなヌーヴォーが飲めればいいのに。」そんなお客様の一言でした。

夏にヌーヴォー?
そう思われる方もいらっしゃると思います。

ヌーヴォーとは、その年に収穫したばかりのぶどうから造られる「新酒」のこと。
フランスのボジョレー地方では、ぶどうの収穫が9~10月となるため、ヌーヴォーの解禁は11月となりますが、季節が逆転する南半球ならば・・・収穫が2~3月だから、夏に楽しめるヌーヴォーが造れるはず!

こうして始まった、「夏ヌーヴォー」プロジェクト。
当時、仙台店のオープンを経験し、お客様からたくさんの声をいただいて東京にちょうど戻ってきたばかりだった私は、「どうしても私にやらせてほしい・・・!」と志願し、プロジェクトチームの一員として、現地に行くことになったのです。

早速、当店でロングセラーのオーストラリアの蔵元「カラブリア・ファミリー」の元を訪ねました。 すると・・・

「ヌーヴォー?そんなもの造ったことないよ」と、最初はなかなか首を縦に振ってくれませんでした。
そもそもオーストラリアでは、新酒を楽しむという文化が無く、「熟成したワインの方が飲み応えもあって美味しいのに、なぜあえてフレッシュな状態で出荷してしまうのか?理解できないよ」と言われてしまったのです。

それでも、日本の市場ではボジョレー・ヌーヴォーが人気で、毎年楽しみに待ってくださっているお客様がたくさんいること、日本特有の暑くてジメジメした夏にはフレッシュなワインをお求めになる方が多いこと、そして、そんなワインを当店で長年のロングセラーであるカラブリア・ファミリーに造ってもらいたいということを丁寧に説明し、一緒にこのプロジェクトに取り組んでいくことになったのです。

それから、味わいのディスカッションを行い、夏の食卓に合わせるシャルドネを使ったキリっと辛口の白ワインと、マスカットを使った暑い日にグビグビ飲めるような微発泡の甘口白ワインの、2種類を造ることになりました。

ラベルのデザインも自分たちで考え、「楽しい気持ちになれるラベルって何だろう?」ということで、Richlandの「d」の横にコアラを入れることにしました。(お気付きでしたか?)

あれから3年が経った、今年の春。
現在、商品部で現地からの輸入を担当している私にとって、ちょっとした試練が・・・

実は、コロナの影響もあり「今年は夏ヌーヴォーの生産は出来ない」という連絡を、生産者から受けていたのです。
でも、この難しい状況だからこそ、お客様に笑顔をお届けしたい、そのためにも必ずいつも通り「夏ヌーヴォー」をお届けしたい・・・その思いでしつこく何度も現地に連絡し、例年より約10日遅れにはなりましたが、夏本番になる前に何とかお届けすることができました。

そんな今年の「夏ヌーヴォー」も、残りわずかとなってまいりました。
まだお召し上がりになっていない方は、ぜひこの機会に。そして、もうお召し上がりいただいた方も、残暑が厳しくなりそうなこれからの季節に、6本セットでストックしておくのがおすすめです。

私にとって、並々ならぬ思い入れがあるこのワイン・・・今年も自信をもってご案内できる味わいです。
お楽しみいただけましたら幸いです。

ソムリエ 保坂

【プロフィール紹介】
学生時代にドイツに留学。そこでワインの美味しさに感動したことでワイン業界を志し、ヴィノスやまざきに入社。営業部で百貨店やスーパーへの販売を担当した後、武蔵小杉店、仙台店の立ち上げを担当。特に好きなワインはカリフォルニアワインとドイツワインで、ドイツワインケナー・上級ケナーも取得。